ペンネーム「山の若大将」さんからの質問です。
上空で一定の高さと位置で静止する飛行テクニックのことをホバリングと言います。
なぜ、ホバリングができるかを説明する前に、ドローンの原理について考えていきましょう。
ドローンとは
日本の航空法では、ドローンのことを「無人航空機」と定義しています。
ドローンという言うと下図の右にあるクアッドコプターのことを考えがちですが、定義からすると下図の無線操縦するすべてがドローンということになります。
多分、「山の若大将」さんもクアッドコプターをドローンと称していると思いますので、以下はクアッドコプターについて解説していきます。
その前に~雑学:羽と羽根と翼
「羽」と「羽根」と「翼」を私たちは何となく使い分けをしているのですが、具体的にはどのように違うのか調べてみましょう。
羽とは
一般的に、鳥類の「はね」のことを「羽」と表現します。昆虫の場合も「羽(はね)」と言いますが、本来は翅(はね)と書きます。さらに、この「羽」(【わ】、撥音のあとでは【ば】、促音のあとでは【ぱ】になる)は鳥や兎などを数える語としても使われています。また、「羽(はね)」は比喩的な表現に使われる場合もあります。例えば、休日に羽を伸ばすといった表現です。これはくつろいだ様子が、鳥が羽を伸ばしている様子と似ているため使われるようになりました。
羽根とは
「羽根」は鳥類の羽から抜け落ちた一本一本のことです。鳥の体から根っこごと離れてしまった「羽」のことを「羽根」と表現します。さらに羽の形をしたものや羽を加工したものも「羽根」と書きます。例えば、赤い羽根、羽根ペン、バトミントンの羽根、お正月の羽根つきなどがあげられます。また、扇風機やヘリコプターのプロペラなど、回転する翼は「羽根」と表現されています。
翼とは
「翼」は一対になった羽のことです。鳥類(やコウモリ)の飛行器官のことを指します。そして、飛行機が誕生してからは、その両翼が鳥の羽と形や役割とが一緒であることから、飛行機の羽を「翼」と表現するようになりました。このほかにも政治的な立場についても「翼」が使われることがあります。例えば、「右翼」、「左翼」などです。
また、「天使の翼」とも言いますね。天使はもともと神様の使いだった鳥からきているので、「羽」や「翼」を使うのでしょうね。
まとめ
● 羽とは
鳥の全身をおおって生えている毛。羽毛。鳥が空を飛ぶための器官。昆虫類が飛ぶための器官。
● 羽根とは
鳥の体から抜け落ちた一本一本のはね。羽の形をしたものや羽を加工したものは多く「羽根」と書く。プロペラなど翼状になっていないもの。
● 翼とは
一対になっている羽。
一応、こんなまとめになりましたが、例えば飛行機は「羽」「羽根」「翼」のどれを用いても間違いというわけではありません。一般的に「翼」がよく使われるということです。
ヘリコプターとマルチコプター
回転翼が一枚のヘリコプターは皆さんが良く知っています。この回転翼が複数枚あるものを「マルチコプター」と言います。最もポピュラーな4枚の回転翼のものを「クアッドコプター」、6枚の回転翼のものを「ヘキサコプター」、8枚の回転翼のものを「オクトコプター」と呼びます。
ヘリコプターとマルチコプターの大きな違いは、回転翼の枚数だけでなく、揚力(機体を揚げる力)を生じさせる方法が異なります。
ヘリコプターの場合は回転翼の角度を変えて揚力を変化させます。しかし、マルチコプターの場合は、回転翼の角度は一定で、回転翼の回転速度の変化で揚力を得ます。
ヘリコプターの場合、回転翼(ロータ)を回転させると、作用と反作用の関係で機体本体が回転翼の回転方向と反対方向の力が生じて、そのままでは機体がぐるぐる回ってしまいます。これを防ぐために尾翼の位置にテールロータと呼ばれる横方向の力を生じさせる回転翼が付いています。
マルチコプターの場合は、隣り合う回転翼の回転方向を逆にして作用と反作用が打ち消し合うようになっています。図でAとD、BとCが同じ回転方向になっています。
また、AとBの回転を遅く、CとDの回転を速くすると前進します。横への移動や後退する場合も、回転翼の回転速度を変化させて移動を行います。すべての回転翼の回転速度を同じにすれば、無風の状態ならホバリングすることになりますが、空中ではそんなに簡単ではありません。そこで必要となるのがフライトコントローラや各種センサです。
マルチコプターが空中で静止できる理由
マルチコプターが空中で静止するためには、現在の機体の位置、姿勢、どのような動きを伴っているかを正確かつ瞬時に把握する必要があります。これらを検知するのがセンサで、検知した結果をモータの出力にフィードバックするのがフライトコントローラということになります。フライトコントローラはマルチコプターの脳であり、マイコンが搭載されています。
主なセンサ
1 GNSS
GNSS(Global Navigation Satellite System)は日本語では「全球測位衛星システム」と呼ばれています。地球の上空数万kmを周回する人工衛星と通信し、地球上のどの場所にいるかを正確に割り出す機能を持っています。このシステムとしてはGPS(Global Positioning System)が有名ですが、これはアメリカが運営している人工衛星システムのことです。アメリカが世界で最初に構築したこともあり、人工衛星システムは何でもGPSと呼んでいるのが現状です。
今や多くの衛星が地球上空に飛び回っており、正確な位置を測定するために、少なくとも3基以上の衛星からの電波を受信して位置を割り出しています。ドローンだけでなく、カーナビやスマホでも近くにいる衛星電波を受信して、正確な位置情報を把握しているのです。
現在、様々な国で人工衛星を打ち上げています。各国のGNSSシステムの名称は次の通りです。
国名 | GNSSシステム名称 |
アメリカ | GPS |
ロシア | Glonass |
欧州 | Galilleo |
中国 | Beidou |
インド | NaviC |
日本 | みちびき |
2 可視カメラ
可視カメラは、屋内など GNSS 信号を受信できない環境での目視移動や災害時における空撮などに効力を発揮します。
また、最近ではサーマルカメラや赤外線カメラを搭載して、災害時に役立てています。
サーマルカメラは各所で使われている無接触の体温測定に使われてるものです。温度を可視化することができるため、火災現場だけでなく、夜間や低照度の中でも体温を持つ人間や動物を見つけることができます。例えば夜間や山間部などでの捜索救助活動に活用できます。
3 加速度センサ
加速度センサは、前後左右への移動を検知します。フライトコントローラが加速度センサから右への加速の検知が報告されると、その分だけ左に移動させようと補正します。これにより、定位置を保ちます。ただし、前後左右の移動を行うためには機体を傾けなければならないため、機体の傾き分を計算して補正数値を決めています。
4 気圧センサ
大気圧とは、空気から押される力(圧力)そのものです。これは地上に近ければ近いほど強く、上空に行けば行くほど弱くなります。気圧センサは、この気圧変化の差を解析することで上昇下降を検知します。
5 ジャイロセンサ
加速度センサは前後左右の移動を検知しますが、回転方向(角速度)には反応しません。この角度の速度を検知するセンサがジャイロセンサになります。
ジャイロセンサはカメラの手ぶれ補正やカーナビなどによく使われますが,スマホやタブレットPCなどにも搭載されており,加速度センサも含めてかなり普及しています。
このようにマルチコプターは各種センサの情報をフライトコントローラで解析し、姿勢制御をしているのです。
マルチコプターによる動画撮影
次の動画は私が初めてマルチコプターを使って動画撮影したものです。撮影したドローンは199gで200g未満であったため、当時は「模型航空機」とされていました。今は100g以上のドローンが「無人航空機」となり、改正航空法の主な対象となるだけでなく機体登録も必要となります。
空中での前後左右の移動や静止、回転の様子がよくわかると思います。