Ⅳ 「衣・食・住」を化学する!!
3 「食」と「住」について

1 「味」と食品に関するお話
 (1) 味の感覚

 (2) 実験1 旨味を確認しよう

 (3) 実験2 アミノ酸の検出

 (4) 実験3 ミラクルフルーツ

2 におい・かおりの化学 
 (1) においの感覚

 (2) 実験4 においを嗅ぎ分けよう

 (3) 実験5 エステルの合成
3 ゴムの性質 
 (1) ゴムの構造と特徴
 (2) 実験6 スーパーボールを作ろう
4 住まいの中の化学

 (1) ラップフィルムの違いを見つけよう

 (2) 実験7 発泡する入浴剤を作ろう 

 今回は「Ⅳ 「衣・食・住」を化学する!!」の3回目、「食と住」について化学の面からアプローチしました。前回は、「色」を化学し、色を分離したり染色に挑戦しました。私たちの生活はさまざまなところで化学に支えられています。今回は、食品化学と住居化学です。実験をとおして、食品の味や栄養、生活用品の性質が化学的な現象から生じていることに理解を深めていきました。

1 「味」と食品に関するお話

(1) 味の感覚

 五感という言葉を聞きますね。今回は味とにおい、つまり味覚と臭覚について考えました。五感のうち視覚や聴覚、触覚は物理的な刺激を情報として得ていますが、嗅覚と味覚は化学物質からの刺激を感じています。昔の理科の教科書には、舌の先は「甘味」、奥は「苦味」というように場所によって感じる味が決まっているという図(味覚地図)が載っていました。

この考えは、現在は否定されていて「舌のどの部分でも、すべての味を感じることができる」ことが科学的な定説となっています。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本味を感じる「味蕾(みらい)」というセンサーは、舌の表面のどこにでもある程度均等に分布しています。

 ひとつの味蕾の中には、それぞれの味(甘味担当、苦味担当など)に反応する複数の味細胞が含まれています。第5番目の味「うま味」は、 かつての味覚地図にはありませんでしたが、現在は日本人が発見した「うま味」も基本味のひとつとして世界的に認められています。

実は、味覚は脳で作られています。 舌からの信号だけでなく、香り(風味)や食感、温度などが脳で統合されて、私たちは「美味しい」と感じています。いまでは、味蕾細胞の仕組みを模倣して、味を数値化できる味覚センサーが作られ、食品工業など様々な場面で使われています。

 甘味料の中にはゼロカロリーと表示されているものがいくつかあります。その一つを水に希釈して味わってみました。糖質からできている砂糖などの甘味料とは全く化学構造が異なるアミノ酸誘導体ですが、しっかりと甘味を感じます。

 味蕾の中の味細胞の表面にある受容体(T1R2とT1R3というタンパク質)に甘味物質が結合するとスイッチが入り、電気化学的に情報を味細胞から神経を経由して脳に伝えています。

この受容体に結合できる物質なら甘味を感じます。甘味・酸味・塩味・苦味・うま味という基本五味すべての受容体(チャネルとも言います)は、味蕾の中に含まれる味細胞の表面に存在しています。

(2)実験1 旨味を確認しよう

日本人が大切にしてきた第5の味覚である旨味を体験してみました。鰹節、昆布などを煮出し、その汁を味わいました。だしの種類によって感じる旨味は違いました。だしを混ぜるとさらに旨味に深みが生じます。

旨味の正体はアミノ酸や核酸のナトリウム塩です。異なるうま味成分が合わさると、感じる強さが数倍〜十数倍に跳ね上がります。これは単なる気分の問題ではなく、受容体の構造レベルで証明されています。

(3)実験2 アミノ酸の検出

旨味の成分であるアミノ酸の検出実験を行いました。だしや甘味料などいくつかのサンプルを水に溶かして綿棒でろ紙につけます。ニンヒドリン水溶液を吹き付けて蒸気で加熱すると、アミノ酸を含むものは鮮やかな赤紫色〜青紫色になります。これをニンヒドリン反応といいます。アミノ酸がニンヒドリンと反応しルーヘマン紫という色素を生成するためです。たんぱく質の検出や指紋の検出にも使われるそうです。よくアルミの粉で指紋を検出している場面を見ますが、紙などの場合はアルミ紛ではうまく検出できません。ニンヒドリン反応が活躍します。

(4)実験3 ミラクルフルーツ

 ミラクルフルーツという不思議な果実があります。西アフリカ原産の赤い実、今回は乾燥物を使いました。このミラクルフルーツには、ミラクリンというたんぱく質が含まれていて、味細胞の甘味受容体に結合して甘味物質をブロックしてしまいます。

ミラクルフルーツを口にすると、一時的に甘いものを口にしても甘く感じなくなります。

ここに酸味、例えばレモンなどの酸が口に入ってpHが下がると、ミラクリンの形が変化し、はまり込んでいた甘味受容体のスイッチを強く押し、脳に「ものすごい甘味が来た!」という電気信号を送り続けます。このためレモンなどすっぱいものを食べると甘く感じるという不思議なことがおこります。

2 におい・かおりの化学

(1) においの感覚

次ににおいについて実験しました。今回の課題で臭い・香りをかくだけでわかる食品をあげてもらいました。たくさん出されました。どれも特有のにおいのする納得の食品です。においのもとは比較的低分子の揮発性物質です。においのする食品からはこの揮発性の化学物質が出ています。この物質が嗅細胞の受容体と結合して信号を脳まで伝達します。

 においを感じるメカニズムは味覚とよく似ています。鼻の奥には、嗅上皮(きゅうじょうひ)という粘膜があって、ここににおいのセンサーが集中しています。人間は400種類以上のにおいを嗅ぎ分けられると言われています。

(2)実験4 においを嗅ぎ分けよう
 サンプル瓶にエッセンスを溶かした液を浸み込ませたろ紙が入れてあります。何のにおいがするか嗅ぎ分けの実験をしました。

(3)実験5 エステルの合成においを嗅ぎ分けよう

 食品のにおいのもととなっている揮発物質の一つがエステルです。これはアルコールと有機酸を脱水し結合させたもので、この化学反応はエステル化と呼ばれます。一般には脱水のために濃硫酸を使いますが、今回は安全のためゼオライト触媒を使って、酢酸とエタノール、イソアミルアルコール、ペンタノールをそれぞれエステル化してにおいを確認しました。

 反応前の酢酸(酢のにおい)やアルコールとは違う、フルーツのにおいに似た芳香が漂ってきました。バナナやパイナップルなどエステル香のする果物はたくさんあります。もちろん食品のにおいのもととなる揮発性物質はエステルだけではありません。どういうものが香りをつくっているか調べるのもおもしろそうです。

3 ゴムの性質

次に、「住」の化学です。生活用品について化学の眼で考えてみました。生活用品の多くは化学の力によってつくられています。ゴムがなぜ弾力

(1) ゴムの構造と特徴

もう一つの課題で身の回りにあるゴム製品を挙げてもらいました。身近にはこんなにたくさんゴムが使われています。ゴムの最大の特徴は弾力性です。力を加えると変形して、力がなくなると元の形に戻ります。そのほか、防水性や絶縁性などの特徴があります。

このようなゴムの特性は、その構造から発現しています。枝分かれのある鎖状高分子でできていて、この高分子の一本ずつが絡み合っています。この構造によって弾力性があらわれます。

天然ゴムはゴムの樹の樹液から得たラテックスに酸を加えて固めたものです。このままでは、加熱すると液状になってしまうのでに硫黄を加えて加熱することで温度が上がっても弾力性を持つようにしています。タイヤやゴムホース用には加熱とともに加圧して作っています。

(2) 実験6 スーパーボールを作ろう
 実際にゴムを作ってみました。ラテックスにクエン酸を加えて硬化させ天然ゴムでできたスーパーボールを作りました。

ラテックスに絵の具を加えてよく混ぜ色をつけます。このラテックスをクエン酸水溶液に加えよくかき混ぜると硬化が始まります。固まったら水の中で揉んで余分なクエン酸や絵の具を溶かし出し、丸くまとめます。早く水の中に入れてしまうと溶けだしてしまってスーパーボールが小さくなってしまいます。固まるまでの見極めが難しいです。

4 住まいの中の化学

(1) ラップフィルムの違いを見つけよう

食品を保存するのにラップフィルムは欠かせません。左図のように食品ラップにはいろいろな種類があります。その素材も製法もまた性質もいろいろな違いがあります。この性質の違いは、高分子フィルムの成分や構造で決まります。良く使われているのはポリ塩化ビニリデンフィルムやポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルファイルムなどです。

(2)実験7 発泡する入浴剤を作ろう

 洗剤や漂白剤など、家庭にある薬剤の中には混合すると危険なものがあり、「まぜるな危険」の表示が付されています。特に、酸性のものとアルカリ性のものを混合することは危険な場合もあります。塩素系漂白剤はアルカリ性で、一方、トイレの洗剤の中には、酸性のものがあり、これを混合すると塩素ガスが発生してとても危険です。

重曹(炭酸水素ナトリウム)とクエン酸はどちらも調理などにも使われる薬品です。この二つを粉のまま混ぜて少しの水で固めると、発泡性の入浴剤を作ることが出来ます。実際に作ってみました。クッキーの方に少しの水で混ぜた重曹とクエン酸を入れ、押し固めます。固まったら方から外して出来上がり。あんまり水を加えると発砲が始まってしまいます。みんあ持ち帰って自宅で試してみることにしました。

 味、におい、ゴム、ラップフィルム、入浴剤、生活に身近なものを題材に化学の視点で探究しました。私たちの生活は化学の力に支えられています。衣食住を化学するとして3回に渡って学習してきました。身近な製品や現象の仕組みを探ることはとても興味深いものです。