Ⅳ 「衣・食・住」を化学する!!
1 「衣」について1

1 高分子化合物について 
 (1) 衣服の構成と素材

 (2) 実験1 牛乳からプラスチックを作ろう!!

2 PETボトルについて  
 (1) 高分子化合物の特徴

 (2) PETボトルあれこれ
 (3) 実験2 PETボトルから繊維を作ろう!!
3 繊維について 
 (1) 種類と特徴
 (2) 実験3 繊維の特徴を調べる!! 

今回から新しい章です。「Ⅳ 「衣・食・住」を化学する!!」の1回目、衣について化学の眼で探究していきます。私たちの生活は化学で溢れています。衣食住、生きていくために不可欠ですが、どれをとっても化学なくして成り立ちません。今回は、衣、高分子や繊維についてその製法から性質まで、実験をとおして、化学的に考察していきます。

1 高分子化合物について

(1) 衣服の構成と素材

衣服は繊維でできています。この繊維は、化学の眼で見ると、高分子化合物という物質で作られています。高分子化合物とは、分子量が10,000くらい以上の大きな分子で、この高分子化合物から樹脂やプラスチック、繊維などが作られています。それぞれ高分子化合物から作られていますが、どのような加工をするかで形態が大きく変わります。そして、これらの高分子化合物は再利用が進んでいます。プラスチック製品、特に飲料のボトルや包装にはリサイクルマークが付けられています。その番号についても学習しました。

(2)実験1 牛乳からプラスチックを作ろう!!

 実際にプラスチックを作ってみました。なんと、牛乳からプラスチックを作ることができるのです。牛乳に含まれているカゼインというたんぱく質を取り出して成型したプラスチックは、合成樹脂が登場する前から、ボタンや印鑑など象牙のような質感をもったプラスチックとして利用されてきました。

 牛乳を温めて、そこに酢を加えるとカゼインが凝集して沈殿します。このカゼインをろ過して集め、プラスチックを作ります。牛乳中のカゼインたんぱく質はいくつか集まって、ミセルという状態を作っています。そしてその表面はマイナスの電荷をもっているためお互い反発して、反発力によってくっつかずに分散しています。これが牛乳の状態です。ここに酢を入れると水素インによってカゼインミセルの表面のマイナス電荷が打ち消され(等電点といいます)、反発力が弱まります。

等電点(カゼインの場合pH4.6くらい)なるとカゼイン同士がくっついて沈殿するようになります。もちろん、重曹のようなアルカリを加えればpHが上がり、再びカゼインミセルの表面がマイナスの電荷をもつので、元のとおり反発しあい凝集状態から分散状態になります。

早速作ってみました。牛乳からカゼインを取り出します。温度に気をつけて実験しました。

ろ過したカゼインには他の牛乳中の成分も付いているので水洗いします。集めたカゼインを型に入れ、あとは乾燥させて固まるのを待つばかりです。

 合成プラスチックの登場によってカゼインプラスチックを作っている会社は減ってしまいましたが、もともと天然素材なので、捨てても微生物に分解される「生分解性」を持った環境にやさしい素材として、再び注目を浴びるかもしれません。工場では、強度を上げて質感を良くするために、圧力や熱をかけて製造しているようです。

 また、牛乳中の乳脂肪分などはカゼインプラスチックを作るのに不要なので、工場ではスキムミルク(脱脂粉乳)を原料にしているそうです。自作したカゼインプラスチックに色をつけ、家に持ち帰って乾燥させます。

2 PETボトルについて

(1) 高分子化合物の特徴

 分子がいくつもつながってできている高分子化合物は、もとの低分子化合物とは違った性質を持っています。通常、低分子の物質は、三態と言って、固体、液体、気体の状態をとりますが、高分子化合物には明確な融点や沸点が存在しない物質が多いことが一つの特徴です。高分子化合物は固体の状態から、温度を上げると、柔らかく弾性のあるゴム状に変化します。これを「ガラス転移点」と呼びます。さらに温度を上げると液体状態になりますが、融点ははっきりしません。また、さらに加熱すると、高分子のまま気体にはならず、分解するものが多いのも特徴の一つです。

 高分子化合物にはその原料の違いから、天然高分子、合成高分子、無機高分子があります。天然高分子は、その名のとおり天然素材を原料としています。綿花や麻などから得られる天然繊維はセルロースというグルコースが結合した高分子です。また、タンパク質はアミノ酸が数千から数百万結合した高分子です。

 合成高分子は、主に石油を原料として化学反応によってつくられています。世界で初めて作られた合成繊維はナイロンで、このナイロンの発明によって合成高分子を使った繊維の扉が開かれました。今や、ナイロンはじめ、ポリエチレン、ポリウレタンなどの合成高分子は、私たちの生活にとって、不可欠なものになっています。

 合成高分子はモノマーと呼ばれる低分子の化合物を重合という化学反応によってつなげて作られます。モノマーをつなげた数を重合度と呼び、高分子の性質に大きな影響を与えます。

 また、合成高分子には加熱した際に、柔らかくなるものと固くなるものがあり、前者を熱可塑性、後者を熱硬化性と呼びます。高分子には、用途に応じたさまざまな性質が求められていることがわかりました。

(2)PETボトルあれこれ

ポリエチレンテレフタレート、略してPETは、飲料の容器などに使われていて、最も身近なプラスチックの一つです。またリサイクルの優等生であるPETは回収されPETボトルだけでなく様々なものに形を変えて再利用されています。

 PETは樹脂としてだけでなく、繊維にも使われています。いわゆるポリエステルがその一つで、しわになりにくく速乾性があるのでシャツなどに使われています。

(3) 実験2 PETボトルから繊維を作ろう!!

ペットボトルのPET樹脂を使って繊維を作ってみました。リサイクル工場でも同じように回収洗浄したPET を溶かして紡糸し、ポリエステルの生地を作っています。

 PETボトルの破片をアルコールランプで加熱して柔らかくし、ピンセットで引っ張って糸状にします。力を入れすぎると切れてしまい、力が足りないと太くなってしまいます。だんだん慣れてきて上手にひけるようになりました。

マグネシウムを連続供給すれば発電し続けます。

3 繊維について

(1) 種類と特徴
 繊維にはいろいろな分類の仕方があり、種類もいろいろであることは学習しました。繊維の見本を触りながら一つ一つの繊維の触感とその製法や性質を確認しました。同じセルロースからできているのに、綿と麻ではずいぶん感触が違います。

 また、同じようにタンパク質からできていてもシルクと羊毛では性質が違いました。繊維の中には再生繊維といって、綿を薬品に溶かして紡糸するレーヨンや、半合成繊維といってセルロースを薬品で処理したアセテートなどがあります。性質も見た目も、触感も大きく違いました。

 繊維は糸のより合わせ方や、織り方によっても性質が変わります。また、繊維の吸水性、保温性、熱伝導率などの物理的な性質の違いを利用して、給水発熱繊維や接触冷感繊維などが開発され、冬用や夏用の肌着などに商品化されています。

天然性の利用から、再生繊維や半合成繊維の開発、、そして合成繊維の発明と衣に不可欠な繊維の歴史は化学の力で発展してきました。今では、アラミド繊維、PBO繊維、超高強力ポリエチレン繊維などの、耐熱性や耐摩耗性などに優れたスーパー繊維が開発されていますが、一方で、環境に排出されたプラスチックがマイクロプラスチックとして生態系を脅かしています。

高性能の繊維とともに、ポリ乳酸などの生分解性のプラスチックの研究も盛んに進められています。

(2) 実験4 繊維の特徴を調べる!!

 最後に、繊維の性質、特に引っ張り強さを実験で調べました。時間の都合で「実験3 PETボトルの素材を調べる!!」は省略し、強度試験です。繊維をほぐして糸を取り出し、ばねばかりに取り付けて引っ張って、切れるときの荷重を測りました。

糸を取り出してばねばかりにつける作業は細かく大変でした。引っ張って切れる瞬間のばねばかりの伸びを読み取っていきます。すぐに切れてしまう糸やなかなか切れない糸などこんなにも繊維の種類によって強さが違うことにびっくりです。

ばねばかりと物差しという簡単な実験装置ですが、定性的な傾向ははっきりと読み取れます。日常着用している繊維への理解が深まりました。

 今回は、高分子化合物、特に、繊維について学習しました。次回はその繊維を染めることに挑戦してみます。